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Deerhoof



Tokyo, 2008. 6. 21
text by Yoshiyuki Suzuki
translation by Satomi Kataoka

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キル・ロック・スターズ・ショウケースで来日した際にとったインタビュー。1時間以上もダラダラと話させていただいたので、必然的に長いのですが、とにかくこれはもう読んで下さいとしか言い様がありません。まさしく世界随一のユニークなバンドが、ここにいます。

「別に“やってしまえ”と思って、やったわけじゃないんです」

それでは最初に、エドが加入した経緯について教えてもらえますか?

Ed:まったくの偶然!

Satomi:ハハハハ!

John:ここ1年半ほどトリオでやってきたけど、メンバーを増やそうっていう話もずっとしてて、そのたびにエドの名前が当然のように挙がってはいたんだ(笑)。僕個人としては基本的に、トリオになったおかげで音楽的に難しい状況に追い込まれたし、3人であることから生じる自分自身の演奏とかメンバーとの相互作用上の難題を、独力で解決せざるを得なくなったというか、いろいろと困難な問題が提示されて、でも逆にそれを自分の力で解決したいと思ってたから、新メンバーを入れる案に抵抗した時期があったんだよ――“俺はこの難題に取り組むべきだし、そのためには自分が上手くならなきゃどうしようもないんだ”って思い込んでいたからね。それで、実際に上手くなったと思ってるわけじゃないけど、トリオでやってた間にいろんなことを学んだのは確かだったんだ。ところが、ある日目が覚めてみると、ミネソタ州の北にある森の真ん中で車を運転してて……

Greg:ヘヘヘヘ。

Ed:目が覚めたら森のド真ん中で運転してたってぇ!?

Greg:アハハハハハ!

John:そこが妙なところなんだけど……とにかく、そのとき突然、メンバーを増やすのが正しいって確信したわけ。すごくしっくりきたんだよ。元々は何かにすごい確信を持ったりするようなタイプの人間じゃないんだけどね。だから、その日眠る前にも“明日の朝にはこの確信も消えてしまってるかも”とも思ったけど、次の日に目覚めてもやっぱり“こうするのが一番だ”という確信が相変わらずあったんだ。だからそう……あの経験が大きなターニングポイントだったね。

……よくわかりませんが(笑)、エドの方は?

Ed:前のバンドを辞めた後は、しばらくツアーとかせずに、バンドをやってたらできないような色んなことをやりつつリラックスしたいと思ってたんだ。で、辞めてから1年ほど経った頃に“そろそろ再開してもいいかな”って思い始めて……。

Greg:クハハハッ。

Ed:そしたらこいつらが“やあ!”って声かけてくれて(笑)“すごいタイミングじゃん”って思って。

Greg:ウホホホホ。

Ed:それで参加したんだ。

去年のフジ・ロックでは、トリオ編成でのライヴを観させてもらったんですが、全然平気っていうか、3人でも普通にやれちゃうもんだなあと思って観てたんですね。でも、やっぱりこうして4人になったというのは、ギター2本にベース、ドラムスという編成が一番しっくりくるからなんでしょうか?

Satomi:そうですね。ずっとわたしだけ“4人目が欲しい”って言い続けて、どっちかっていうとジョンが一番“3人でいたい”って感じだったんですよ。

つまり、3人編成であることによって生じる様々な困難に、敢えて立ち向かいたい、ということで?

Satomi:そうそう、だから立ち向かってたんですけど、わたし的にはヴォーカルにもっとプッシュが欲しかったんですよ。ハーモニーが濃すぎて、ヴォーカルを上に乗っけるとすごく薄く感じちゃったりとかしてたので、メロディ・ラインとかをもっとサポートしてくれる人や歌ってくれる人が欲しいなと、ずっと思ってたんです。だから、ジョンが急に“4人目がほしい”と言い出して、エドを連れてきた時、ずっと4人目が欲しいと思ってたわたしとしては、とてもしっくりきたんです。今ではエドかジョンが、わたしのヴォーカルの後ろにいて弾いてくれて、ふたつ目の声があるんで、もっとしっかりした……。

Greg:……パフィーみたいに。

Satomi:パフィーみたい?(笑) とにかくしっかり聞こえるんで、歌いやすいし、すごく良いと思います。フジ・ロックの時の感じって、けっこう骨々しくなかったですか?

そんなに気にはならなかったですが。

Satomi:あ、そうなんですか。そのムキ出しな感じというか……3人が一生懸命タイトにやるのも確かに楽しいんですけど、やっぱり4人になると、もうちょっと間を空けてスカスカにしてみたりという遊び方もできるんで、気持ち的にも楽ですね。すごい楽しいし、4人の方が、やっぱり……わかんないけど(笑)、トリオの時は、ジョンがリズムもメロディも全部ひとりで弾いてたんで、見るからに苦しげというか、かわいそうなくらいで。

Greg:ブホホホホ! アハハハハ!

Ed:YouTubeとかでライヴ映像を観ても、もう表情からして“グワアア〜ッ”って感じが伝わってきて。

John:パニック状態になるんだよ。

Satomi:心に余裕ができなくて、たとえばみんなでタジ・マハールとか観た時には「これくらい心に余裕を持ってやらないとねえ」って思ったし。

Greg:ローリング・ストーンズの『ロックンロール・サーカス』を観たんだよな。

Satomi:そう、『ロックンロール・サーカス』とかみんなで観た時に「こういうふうになりたいね」って。

わかりました。さて、先程1回だけ、秋に発表予定の新作を聴かせてもらったんですが、これは4人編成になってから作られたものなんですよね?

Satomi:4人です。全員います。

新たな4人で作ったということで、これまでとの違いとかって、何かありましたか?

Satomi:(英語)あなたの得意分野の質問だと思うけど……。

Greg:え?(笑)

Satomi:今回のアルバムの違いって、何かですって。

Greg:僕の“得意分野”って、なんだかなあ(笑)。前のアルバムと比べてどこが違うかってこと?

というか、今までと総体的に比べて、ということで。

Greg:全体的に見て僕がどう思ってるかって? ウッホッホッホ! もちろん、4人組に戻ったってことが音楽的にはデカイと思うけど、っていうか、4人組に“戻った”っていうのとはちょっと違うね。むしろ新たな4人組へと一歩“進んだ”という感覚なんだ。エドのプレイは、以前4人目のメンバーだったクリスとは、まったく違うし……。

John:曲の書き方もクリスとは全然違うし。

Satomi:ホンットに違うんですよ、クリスとエドは。どっちかって言えば、クリスって感覚が全然……わたしよりフェミニンぐらいな……(英語で)クリスの作る音楽って、すごくフェミニンなフィーリングがしたよね。何ていうか、とにかく音楽が醸し出す感覚が。でも……(日本語で)エドは、ジョンみたいなんですよ。(英語で)あなたたちふたりは双子みたいよね。

John:(笑)。

Satomi:ソングライティングのスタイルが、ふたりともすごく似てるというか。

Greg:そうそう。

John:確かに。

Satomi:たぶんジョンが「これ僕の曲」って言ってエドの曲を持ってきても、わかんないくらい似てて……でも、クリスとグレッグは曲作りの感じがちょっと似てたかな。

Greg:それに、曲作りだけの問題じゃないんだよね。クリスとジョンがギターを弾いてた頃は……(笑)変な話なんだけど、ギター・パートを弾くとき必ずクリスが、全部ワンテンポ遅れて弾くわけ! とにかく、いっつも遅れるんだ。そうやってでも常に目立っていたかったんだろうな(笑)。けっして混じり合いたがらなかったからね。いつも一番デカイ音を出したがったし、デカイ音じゃなくても必ずテンポを遅らせたりして、みんなが“あれはクリスだ”って気づくようにしてたんだよ(笑)。一方ジョンとエドのプレイは、逆に1本のギターで弾いてるみたいに聞こえてくるし、だから考え方からしてまったく違うんだと思うよ。新作の『Offend Maggie』にも、モノラルで聴くと1本のギターがドデカい音を鳴らしてるみたいに聞こえる箇所が、たくさんあるんだ。ものすごい不協和音が鳴り響いてるっていうか、いろんな音が1本のギターからの一塊みたいに聞こえてくるわけ。ふたりとも、もともとギター・サウンドが似通ってるし、ふたつのギターを合体させてひとつのドデカいサウンドを作り出す、その術を知ってるんだよ。

John:この4人組でやった最初か2度目のライヴでは、僕がモニターから離れた場所にいたせいでエドの弾いてる音が聞こえなくなる瞬間があって……そのときはグレッグは完全にフリーな状態で、サトミはノイズ・インプロヴィゼーションをやってて、僕とエドは一緒に演奏してなきゃいけなかったんだけど、でも不思議なことに、僕はエドのことを全然見てないし音も聞こえていないにもかかわらず、彼と一緒に弾いてる!っていう確信があったんだよね。あれはとてもクールな瞬間だったな。そんな感覚に陥ったこと自体にも驚いたし。


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