リコーダー

 

名 称

英語のリコーダー recorder が最も一般的な呼び名です。語源は、古い英語の to record =「鳥がさえずる」 に由来するといわれます。この他に、「柔らかい音」に由来する、フラウト・ドルチェ flauto dolce(伊)、フリュート・ドゥス flute douce(仏)、その形状・造作に由来する、ブロックフレーテ Blockflote(独、栓)、フリュート・ア・ベック flute a bec(仏、鳥の嘴)など、国により時代によりさまざまな名称で呼ばれていました。

リコーダーは後期バロック時代(18世紀前半)には、最も普及した楽器として単にフルート(フラウト flauto)とも呼ばれていました(これに対して、現代のフルートの前身である当時の横笛は、わざわざ「横の」フルート、イタリア語でフラウト・トラヴェルソ flauto traverso、または略してトラヴェルソと呼ばれました)。

サイズ

現在、一般的に使われているのはソプラノ(英語ではディスカント)、アルト(英語ではトレブル)、テノール、バス(バセット)の4種類で、ソプラノとテノールはC管(最低音が c2 および c1)、アルトとバスはF管(最低音が f1 および f )が一般的です。

時代をさかのぼり、M. プレトリウスの「音楽大全」(1615〜1620)には、小さなものから2メートルもある大きなものまで9種類ものリコーダーが紹介されています。ルネサンス時代(15〜16世紀)にはリコーダーが、リコーダーのみの合奏(ホール・コンソート)や、他の楽器との合奏(ブロークン・コンソート)に盛んに用いられ、また、声のパートを補強するためにも使われていました。

その後、後期バロック時代にはドイツの作曲家・音楽理論家 J. マテゾンが、F管のアルト(ドイツ語でディスカントと呼んでいます)、C管のテノール(同アルト)、F管のバスの3種類を挙げています。当時はその他にも、主に独奏楽器として、D管のテノール(人間の声に近いということでボイス・フルートと呼ばれました)、D管・C管・B管など各種ソプラノ、F管のソプラニーノと、さまざまなサイズの楽器が使われました。しかしこの時代に、flauto と呼ばれ最も頻繁に使われ愛好されたのはF管のアルトで、当時の作曲家たちは数多くの曲をこのアルトのために残しています。

音 域

音域は、2オクターブと1全音が基本です。例えばF管のアルトでは、指穴を全部ふさいだ最低音が f1 なので、最高音が g3 となります。リコーダーの音は上手く演奏されればそれほどかん高い感じはしませんが、実音はアルトでもこのように大変に高い音域で、楽譜も french violin clef(通常のト音記号記譜での五線譜より線1本分下にずれ、高い音域が記譜しやすい)が使われました(ドイツの名工J. デンナーには、特殊な指使いでより高音域が演奏可能な高性能楽器もあり、またテレマンはヘ長調やハ長調の協奏曲などで通常は演奏不可能な高音域を効果的に用いていますが、これらは例外です)。

形状と材質

リコーダーは、表に7つ、裏に1つの穴がある、吹き口にブロック(栓)をはめた発音機構の縦笛です。

ルネサンス時代までのリコーダーは1本の造りで、管の構造は円筒形。その音色は合奏に理想的な、倍音の少ない柔らかなものでした。一見単純な造りですが、バロック・リコーダーの前身楽器という位置づけにとどまらない完成された楽器だと思います(ルネサンス・リコーダーは左利きの人でも使えるように、小指用の穴が左右に2つ開いているものがあり、一方をロウなどで塞いで使いました。このページの写真「ルネサンス・リコーダー」をご参照ください)。

時代は下ってバロック時代、17世紀後半にはフランス(フランドルという説もあります)で横吹きフルートやオーボエなどの木管楽器の改良(変化)が行われましたが、これと並行して、リコーダーも3本継ぎ・円錐形内管の楽器に変貌します。倍音を豊かに含むソロ楽器としてのリコーダーの登場です。これ以降リコーダーは、19〜20世紀のリバイバルを経て現代までその基本的な姿を変えることはありません。

材質は柘植(つげ)の楽器が多く残されていますが、他にも楓(かえで)など柔らかなものから、黒檀・象牙など固いものまで、さまざまです。個人的にはバロック楽器にはつげが一番、ルネサンス楽器にはより柔らかい材質が合うと思います。柘植の楽器はウィンドウェイ・歌口が変形しやすいのか、発音部調整(re-voicing)をメーカーに頼むのが少々手間です。

後期バロック時代の木管楽器は、象牙のリングなどの装飾が施されているものが数多くあります。ブレッサン作のリコーダー、オットテールのフラウト・トラヴェルソ、ステンズビーのオーボエなどなど、写真を見ているだけでも飽きません*。リコーダーでは象牙のリングが音色に影響するといわれていますが、微妙な変化はあるのかもしれませんが、楽器の善し悪しに関係なさそうです。

* 昔の製作家によるオリジナルのリコーダーに興味のある方、リコーダーについてもっと知りたいという方には、朝岡聡氏の『笛の楽園−僕のリコーダー人生』が、魅力的な文章とともに楽器の写真も多く掲載され、お勧めの1冊です。

指使い

バロック時代にはリコーダーは、同時代のトラヴェルソやオーボエに似た、オリジナル・フィガリング(またはオールド・フィンガリング)が使われていました(オリジナル・フィンガリングの詳細はオットテールの教則本などをご参照下さい)。現在では、古楽器のコピー楽器も、また一般に学校教育で使用されているものも、バロック・フィンガリングと呼ばれる指使いによるものがほとんどです。一長一短ですが、機能面ではバロック・フィンガリングが優れていると思われます。テレマンやバッハの曲を吹くのはただでさえ難しく、オリジナル・フィンガリングでは正直お手上げ、リコーダーの名手だったテレマンなんかやすやすと吹いちゃったんでしょうが・・・。

ただし、ルネサンス音楽、初期バロック音楽、さらにオットテール時代(中期バロック)のフランス音楽などは、平均律では和音がきれいに響かないので、時代に即したそれぞれのオリジナル・フィンガリングの楽器が向いているように思われます。一時期使用された、ドイツ式と呼ばれる指使いは問題が多く、今ではほとんど使われなくなりました。現在一般的なダブル・ホールは、ブレッサン製の一部の楽器などの例外を除き、当時はありませんでした。

ピッチ

後期バロック時代のピッチ(基準になる音の絶対的な高さ。a1 の音の振動数で表す)は地域により、また演奏の場所によりさまざまでしたが、バッハと親交のあったオルガン製作家ジルバーマンが使っていた音叉と同じ a1=415Hz が、現代のバロック音楽演奏ではスタンダード(バロック・ピッチ)となっています。古楽器演奏のレパートリーの中心がバッハだったこともありますが、これは現代の標準ピッチである a1=440Hz よりちょうど半音低いので、何かと便利だったということもあるのでしょう(CDでアーノンクール指揮コンツェントゥス・ムジクス・ウィーンの演奏を聴くと、 415Hz よりも微妙に高いのがわかりますが、これは同団体のメンバーが最初に入手した管楽器、A. グレンザー製のトラヴェルソのピッチを踏襲しているためだそうです。グレンザーはモーツァルトの時代に近いメーカーです)。

カメラータ・ムジカーレも 415Hz で演奏活動を行っているので、管楽器奏者は 415Hz の楽器を使用しています。このピッチのリコーダーを手にとってごらんになると、ちょっと大きくて重い感じがすると思います。しかし実は、現存するバロック時代のリコーダーの多くは、これよりもさらに低いピッチで調律されていました。

最近、415Hz よりも半音低いフレンチ・ピッチ(フレンチ・カンマートーン、a1=392Hz)によるバッハ演奏がしばしばCDなどで聞かれますが、リコーダーやトラヴェルソ用の器楽曲のほとんどがライピツィヒ時代以前に書かれていること、ワイマールおよびケーテンのピッチが現代ピッチよりほぼ全音低かったと思われることから、バッハの器楽曲の演奏にとって「歴史的」にはこれが正しいのでしょう(ライプツィヒ以前の初期・中期カンタータのリコーダーをはじめとする木管楽器パートは、バッハにより短3度高く記譜されています。オルガン・通奏低音・弦楽器・声楽は現代ピッチより高いコアトーン、管楽器は低いフレンチ・カンマートーンで演奏されたことがわかります)。

かつてブリュッヘンが録音したヘンデルのソナタ集で、かなり低いピッチのステンズビー(シニア)のリコーダーを使用していましたが、私見ではこの音がリコーダーの理想です。リコーダー奏者の多くは、標準ピッチが a1=400〜410Hz であったら、と思うのではないでしょうか。吹き比べてみると結構その差は大きいです。でも、われわれアマチュアは余りピッチは気にせず(経済的にも対応困難)、より良い演奏をめざしましょう。ブリュッヘンが吹くと、a1=440Hz よりも高いイタリアのピッチで演奏しても衝撃的な名演奏でしたものね。

歴 史

表に7つ、裏に1つの穴をもつリコーダーがいつ発明されたのか、その起源ははっきりしません。遅くとも12〜13世紀には、中世型の狭い円筒内径のリコーダーが存在していたようです。15〜16世紀には声に重ねたり器楽合奏にと、頻繁にリコーダーが使われました。16世紀初め、英国王ヘンリー8世がリコーダーを愛好し膨大なコレクションを所有していたことはよく知られています。劇音楽にも盛んに使われ、「ハムレット」にもリコーダーが登場します。

17世紀後半に新しいバロック型の木管楽器が登場したことは前述しましたが、リコーダーの黄金時代といえるのは何といっても後期バロック時代です。

バロック最大の作曲家 J.S. バッハは、ワイマール時代まではもっぱら「フラウト」=縦笛のリコーダーのために作曲し、以後も終の棲家(ついのすみか)となるライプツィヒ時代まで、リコーダーを頻繁に使いました。リコーダーを含む器楽曲こそ、ブランデンブルク協奏曲第2番と第4番(および第4番の編曲であるチェンバロ協奏曲)しか残されていませんが、数多くのカンタータなど声楽曲ではたいへん印象的・効果的なリコーダーのパートが残されています。ヘンデル、テレマン、ヴィヴァルディ、パーセルなどの大作曲家たちもリコーダーのために数多くの作品、パートを書きました。

しかし、18世紀に入ると次第にトラヴェルソの人気に押され始めます。バッハが初めてトラヴェルソを用いたのは、ブランデンブルク協奏曲第5番(1720年頃)といわれていますが、以降徐々にリコーダーの使用頻度が下がり、1727年の「マタイ受難曲」を最後に、編曲を除きすべてトラヴェルソに取って代わられました。

前述のマテゾンも時代の流れを先取りして、普及しつつあった卜ラヴェルソを高く評価し、一方でリコーダーに厳しい目を向けています(演奏が簡単だが長く聴くと疲れるというのは、進歩派マテゾンの感覚での辛口評価として、さもありなんですが、理由の1つ、リコーダー演奏は他の木管楽器より多量の息が要る、というのは、音量が小さい楽器という今の常識からは意外な気もします)。18世紀後半には「フルート」はトラヴェルソ → さらには(今日ではクラシカル=古典派時代のフルートと呼ばれる)多鍵フルートを意味するようになり、リコーダーは徐々に影が薄くなり、19世紀には事実上その姿を消すことになります。時代が要請する音量、音色の変化に対応できなかったために、チェンバロやヴィオラ・ダ・ガンバと似た運命をたどったと考えられます。

楽器のご紹介

以下の写真の中に、残念ながら当時の製作家によるオリジナルの楽器はありません。コピーのメーカーについては「4.勢ぞろい」をご参照ください。別途記載なき場合、ピッチ a1=415Hz、材質=つげ、指使い=バロック・フィンガリングです。

1.ルネサンス・リコーダー

上からソプラノ、アルト、テノール。アルトはルネサンス時代に一般的だったG管です(材質=かえで)。オリジナル・フィガリングでミーントーンに調律され、きちんと吹けば長3度が純粋に響きます(響くはずです)。

2.バロック時代の名工たち

後期バロック時代には、ドイツ・フランドル・フランス・イギリスなどで名工の手によるリコーダーの銘器が輩出されました。右からJ. デンナー(独)、ステンベルヘン(蘭)、ブレッサン(仏→英)、ステンズビー Jr.(英)のアルト(ブレッサンは低いフレンチ・ピッチ 392Hz)。

3.各種サイズのバロック・リコーダー

上から

4.リコーダー勢ぞろい(山本所有のリコーダー全13本)

上から

私見・リコーダーの特徴

何といっても手頃な値段ですぐに楽しめる、しかも奥が深いという点で、(歌を別にすれば)ナンバーワンの楽器です。その音色はやさしく(dolce)、夕方恋のセレナーデを演奏するのに適していたが、効果抜群で禁止されていたとの話も(詳しくは専門の風俗史でお調べください)。その他の特徴は、

13本勢ぞろいした写真が家族に発見されないことを祈りつつ。

【追記】 リコーダーの新顔(2006年2月)

Fukushima製アルト・リコーダー。上段はDenner、下段はBressan(フレンチ・ピッチ)のコピー。やっと巡り合えたという感じのお気に入りの2本です。

 


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