第342回 日曜地学ハイキング記録
日曜地学ハイキング記録

紅葉に色づき始めた二子山を登る



第342回日曜地学ハイキングを平成12年10月15日に実施しました。
 西秩父の名峰として親しまれている二子山は、石灰岩でできていて、フズリナ類などの化石や方解石の結晶を見つけることができます。また山頂付近では、両神山をはじめとするまわりの山やまを広く見わたすことができます。
 完成したばかりの新訂版「埼玉の自然をたずねて」に紹介のある『二子山--西秩父の名峰とフズリナ化石』コースをたずねました。


10月15日  西武秩父駅 改札前 午前9時集合
         解散は、 同駅 午後5時頃


今回の見学コースの概要は次の通りです.
コースの概要;西武秩父駅〜バス37分→小鹿野町役場〜バス35分→坂本
            坂本〜徒歩20分→民宿「登人」〜90分→股峠〜60分→二子山西岳山頂
            二子山西岳山頂→股峠→民宿「登人」→坂本〜バス70分→西武秩父駅

持ち物;弁当、筆記用具、雨具、ハンマー、軍手、新聞紙、ビニール袋
参加費;100円
案 内;鈴木禎一(川越高)保科裕(和光高)松井正和(富士見高)



ポイント・行程と観察内容


上図は、新訂版「埼玉の自然をたずねて」より


第1ポイント 仁平沢に沿って〜山中地溝帯

 西武秩父線西武秩父駅から小鹿野車庫行きバスに乗り、小鹿野町役場で下車。坂本行きバスに乗りかえ終点坂本でバスをおり、仁平沢にそった山道を登っていった。所どころに地層が露出している。これらは砂岩と泥岩の地層で、今から約1億年前(中生代白亜紀)の海にたい積したものとのことである。このような地層が見られる地域を山中地溝帯と呼んでいるとのこと。沢の水がほとんどなくなるところから上流では、灰白色の石灰岩の転石が自立つようになった。



 山中地溝帯とは秩父盆地の北西隅から、西北西方向に長野県佐久市まで続いている細長い白亜系の分布する地域をいいます。そして、南と北にある秩父中・古生層の間断層によってはさみ込まれた「地溝」状をしているので、この名がつけられています。
 ここに分布する白亜系は、主に泥岩・砂岩・礫岩からできていて、礫岩の中には花岡岩や片麻岩が含まれていることもあります。化石は西部の方に多く産し、埼玉県下ではあまり豊富には産出していません。その中には、二枚貝・巻き貝・アンモナイト及び植物化石があり、これから見ると山中地溝帯の地層は、おもに白亜紀前半に形成されたものです。


第2ポイント 股峠〜石灰岩の隙間で成長した方解石

 股峠の手前の分岐点をローソク岩のほうへ20mほど行くと、山道の周辺にガラスの破片のようにきらきら光を反射する鉱物の結晶がちらばっていました。方解石とのことです。ここでとれる結晶は最大5cmほどで、白色半透明であるとのこと。方解石は石灰岩をつくる主な鉱物で、その成分は炭酸カルシウム(CaC03)。
 この結晶は石灰岩のすき間で大きく成長したものが、石灰岩が浸食されたために転がりでてきたものとのことです。そして、ガラス板のように平らな面(へき開面)で、光が反射してキラキラ光っていました。
 さらにローソク岩のほうへ100mほど行くと、小さな嗣があり、そのまわりは大きな石灰岩の岩壁がそびえ立っていました。見あげるとその岩壁は、おおいかぶさるようでした。足もとにある岩石は、暗灰色の泥岩と緑がかった灰色のぎょう灰岩とのこと。これらは、秩父中・古生層の蛇木層と呼ばれる地層だそうです。二子山の石灰岩体は、この蛇木層の地層のあいだにレンズ状にはさまれているとのことです。ここで、西岳登山グループ、東岳登山グループと股峠でとどまり方解石探しのグループにわかれました。
透明な方解石を通して線を見ると線が二重に見えます。これは、方解石が複屈折の性質を持つためです。複屈折とは、物が二重に見える現象をいいます。方解石をまわすと、それまで二重に見えたものが重なり一つに見えることもあります。そして、さらにまわすとまたまた二重に見えるようになります。もともと「物が見える」のは、その物に当たった光が私たちの目に入るからです。ところがこの場合「物が二重に見えるのは」その物から出た光が二つに分かれて目に入るからです。


第3ポイント 二子山〜石灰岩体を登る

 西岳山頂では、360°のパノラマが望めましたが、前夜の雨のせいか霞がかかり、遠望は出来なかった。南側にのこぎりの刃のようにするどい蜂をもつ両神山がかすかに見え、北東には西御荷鉾山と東御荷鉾山らしい山体、西側には山頂が採掘によって削られた叶山が見えました。叶山の山体の上半分は、セメントの原料として削りとられています。東側には二子山東岳とそのすぐ向こうに白石山、さらに秩父盆地をへだてて武甲山などが見えました。これらの山はいずれも石灰岩でできていて、西北西一束南東の方向に一列に並んでいるとのことです。叶山も武甲山も山体が削られ破壊が進むなか、二子山の石灰岩体はたいへん貴重なものとのことです。
 二子山の西岳と東岳の頂上に近い部分は、ともに灰白色の石灰岩でできているとのことです。二子山の石灰岩は、炭酸カルシウムでできた骨格をもつフズリナ類やサンゴ虫など、今から3億年前の太古の海に生きていた生物の死骸が、海底にたい積してできたものだと考えられているそうです。石灰岩は二酸化炭素をふくむ雨水に溶かされる岩石で、二子山の山頂からの登山道には、巨大な石碑のような石灰岩がいくつも立ち並んだように見えていましたが、石灰岩地帯には特有のカルスト地形だそうです。
 二子山の石灰岩の風化した表面をルーペでていねいに見ていくと、径1〜3mmのフズリナ類の化石が見つかりました。くわしく調べるためには、石灰岩をうすくみがいて岩石プレパラートをつくり、フズリナ類の断面を、顕微鏡で見るそうです。西岳山頂の石灰岩は、フズリナ類のうちトリテイシーテス属とフズリネラ属の化石をふくむそうで、そのことから、古生代石炭紀のものであるというこどす。東岳山頂のフズリナ類はトリテイシーテス属が多いので、古生代石炭紀後期〜ベルム紀初期の石灰岩であるそうです。西岳と東岳の山頂の石灰岩にふくまれるフズリナ類から、西岳の石灰岩のほうがやや古いということでした。
 股峠から西岳山頂をへて魚尾峠までは、たいへんに危険な切り立った岩場になっています。下りはもと来た道をもどりました。
 フズリナは、古生代石炭紀からペルム紀(約3億5,000万年から2億5,000万年前)までの約1億年の間に発生し絶滅した有孔虫(単細胞動物)の仲間で複雑な構造の殻を作ります。最初のころは小さくて比較的簡単な構造でしたが、だんだんと大きく複雑なものへと進化して行きました。
石灰岩の中からは、たくさん見つかる化石の一つですが、実物の大きさはゴマ粒から大豆ぐらいのものが多く、その形から別名「紡錘虫」とも呼ばれています。
フズリナは、これまでに世界中で約3,600種が知られています。フズリナの進化速度は速く、また1種の生存期間が比較的短いため、石灰岩に含まれるフズリナを調べればその石灰岩がいつの時代に当たるかが分かるようになっています。石灰岩の地質や他の化石を研究するための大変重要な示準化石です。





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